2013年1月11日金曜日

「われ、敗れたり」~米長邦雄を偲ぶ


将棋においてコンピュータと人間のどちらが優れているのかを考えると、進化を止めないコンピュータに対して、人間はいずれ歯が立たなくなるんだろう。人間にはコンピュータにない勝負感や感性などがあるといっても、ミスをするし。

ただ、現時点ではコンピュータ棋士も過渡期であり、まだ人間にも勝ち目があると思う。そして、2011年にコンピュータ対人間の「電王戦」が開催され、ネット中継された。

コンピュータ代表は最強の棋士「ボンクラーズ」。一方の人間代表は、プロ引退7年が経過し、日本将棋連盟会長であった67歳の米長邦雄氏。なぜ、人間側はバリバリの現役棋士ではなく、そんなご老体が選ばれたのか。本書ではまずそこから説明がなされ、しだいに米長氏の将棋界全体を考えた深い読みが明らかになる。勝負も大事だが、将棋界の活性化、発展も大事だという将棋連盟会長としての立場を重視した見事な戦略だ。

もちろん対局者として選ばれた以上、米長氏は現役時代の棋力を取り戻そうと、特訓に明け暮れるのだが、氏は自身がコンピュータよりも弱いことを自覚する。まともにぶつかっては勝ち目がない。その結果、生まれたのが後手の第1手「△6二玉」。通常の将棋において、第1手に玉(王)を動かすことはまずあり得ない。しかし、米長氏は対コンピュータにはこの手こそが最高の手であると確信する。

果たして、この第1手が最善手だったのか。対戦は米長氏が敗れてしまったため、その答えはまだはっきりしていない。しかし、対コンピュータに挑んだ老棋士が打った「△6二玉」は将棋史において、長く語り継がれるのだろう。

ところで、この本出版後、故人となった米長邦雄氏、将棋界における実力はもちろんだが、名言・珍言を残したことでも有名だ。「兄は頭が悪かったので東大に入学し、私は頭が良かったので将棋界に入った」、「やってみたいスポーツは段違い平行棒」、「初ツイッター、トイレなう」などの有名な発言やヌード写真公開、様々な女性遍歴などがある。事前に奇人「米長邦雄」を知っておけば、本書はもっと楽しめる。

昨年の2012年12月没。

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